理系夫婦のうたたねブログ

理系夫婦が好きなことを書いていきます。たまに医学っぽいことを書いていますが、あくまで私見です。

線虫と遊ぶ、線虫で実験する。

とある日、「なぜあなたの研究は進まないのか」という本を読んだ。

 

なぜあなたの研究は進まないのか?

なぜあなたの研究は進まないのか?

 

 この本自体の紹介は、特にしないのですが(面白かったですよ)

この本を読んで思ったことをば、少し

僕はよく、趣味を聞かれたり、休日に何をしているのか聞かれたりすると、自分のやっていることを揶揄して「線虫と遊んでます。」と答えることが多いです。自分の心の中では、実験をしているというようなことを思っていました。

でも、この本を読んで思いました。今僕がしているのは、本当に「線虫と遊んでいる」に過ぎないのではないないかと

実験の計画をしっかり立てることもなく、やった実験の結果を十分に解釈することなく、ただひたすらに線虫をいじる。

そんなのは実験じゃない。本当に遊んでいるだけだと。

反省した。

 

 

理解しえぬもの

夜中に文章を書くのは良くないと昔からいう。

感情的になりすぎてしまうからだ。

 

初めましてなのに、素っ気なかったり、ぶっきらぼうな人たちのことが理解できない

ある程度関わった上で、そうなるのはある意味仕方ない。嫌われてるのかもしれないから。

でも、話したことない人にそういう態度をされると、そもそもまともに話せなくなる。何を考えているんだろうか。そういう態度が、その後の関係性に有用だと思っているのだろうか。

 

全く理解しえないのです。

順遺伝学へのあこがれ

順遺伝学は僕のあこがれです。

なんてったって、研究をしているとどうしても付きまとう「仮説」というものから(ある程度)自由だからです。「仮説」というのは研究をするのに必要だけど、あると間違った方向に進んでいってしまうこともある気がするのです。P.B メダワーが、仮説を信じる気持ちの強さとその仮説が真実であるかどうかは全く関係がないという趣旨のことを著作に残していますが、全くその通りだと思うのです。

その点、順遺伝学は何が見つかるかわからない(それどころかそもそも何かが見つかるのかわからない)ので、純粋な目で生物と向き合うことができると思っています。その分、系の構築には気を使うと思いますが・・・

 

 

Genome-Wide Screen for Genes Involved in Caenorhabditis elegans Developmentally Timed Sleep | G3: Genes | Genomes | Genetics

G3 に掲載された論文です。

線虫の睡眠(Lethargusと呼ばれるもの)の制御因子にNotchがあるのですが、それを用いてLethargusの制御因子を順遺伝学で探索しています。

Lethargusで順遺伝学というのは難しいと思います。なぜならLethargusの変異体を取ろうとすると変異線虫のLethargusを記録する必要がありますが、Lethargusは数時間(たいてい2~3時間)継続する現象なのでサンプル数を増やしにくいためです。さらに線虫が寝る時間を見極めて上記の時間の記録が必要ですのでよくわからない場合には5~6時間の記録が必要となってしまいます。

順遺伝学をやろうとするならおそらくスクリーニングのスケールとしては数千匹はやらないと面白いものは引っかかってこないと思われるので、Lethargusをまともに見て、順遺伝学をやろうとすると途方もない時間がかかってしまいます。

この論文の筆者たちはその点をNotchの異時性発現によってクリアしています。Notchをheat shockプロモータで異時性に出すと線虫は眠るタイミングでなくてもlethargusのような行動をとります。その時に眠らない線虫を拾ってきたということです。

heat shockによって異時性に眠らせることで、線虫の眠るタイミングを操作できるため、効率よくスクリーニングが行えるという算段なわけですね。

さらに筆者たちは第二段階、第三段階とスクリーニングをしており、第三段階ではLethargusを直接測定しています。

いかにしてサンプル数を稼ぎつつLethargusの制御遺伝子を取ってくるかということを悩まれた末の系であったと思います。やはり順遺伝学の系にはセンスが現れますね。僕もいつか、論文を読む人が唸るような順遺伝学の系を作ってみたいものです。

腎臓と鎮痛薬

腎臓内科を回っていると、なんのためらいもなく処方されているNSAIDs(鎮痛薬)に恐怖を覚える。

でもふと思った。僕もよく頭痛で、半分が優しさでできている某鎮痛薬を飲んでいるが、腎臓はダイジョブなのかと

そこで斜め読んでみたのがこの論文

Over-the-Counter Analgesic Use

なんとなく腎臓に良くないと思っていたNSAIDsだが、機序がきちんとわかっているのは急性障害であり、実は慢性使用による障害についてはよくわかっていないらしい。動物実験では腎乳頭壊死が起こるらしいが・・・

またCKD(慢性腎臓病)患者さんが慢性的に鎮痛薬を服用するとCKDのstageが進むことは疫学的にわかっているが、少なくとも正常腎機能の人が時折NSAIDsを飲むくらいでは腎機能に悪影響はないとのこと。

 

明日からも鎮痛薬が飲める・・・

線虫の死亡診断書

今日は論文紹介です。

Two forms of death in ageing Caenorhabditis elegans : Nature Communications

今週Nature Communicationsに出た論文を読んでみました。

 

僕は昔、医学を学べば少しは死についてもわかるのではないかと考えたことがありました。医師は患者が亡くなれば死亡診断書を書きますし、簡単にわからない死因だったなら解剖をして明らかにするのではないかと思っていたのです。

今、医師として働き始める程度には医学を勉強して知ったことは、突き詰めていくと結局のところ何を持って死と定義すればいいのかわからないし、死因がはっきりしないことだっていくらでもあるんだなと言うことです。

 

今回の論文は線虫の死因についてです。寿命の研究は線虫では非常に盛んに行われています。線虫は2〜3週間という短い寿命を持ち、遺伝学を応用しやすいので寿命の研究に最適なのでしょうね。

通常の線虫の寿命の研究は、大雑把に言えば遺伝学を用いて変異を入れた線虫の寿命を測定する実験がメインになってきますが、今回著者たちは線虫に対して病理学的なアプローチを用いました。

著者たちは線虫は咽頭が膨れて死ぬ線虫としぼんで死ぬ線虫に分けられることに着目し、これらの線虫の死因を調べました。その結果、膨れた咽頭にはバクテリア(大腸菌)が浸潤していることを明らかにしました。

僕は今まで線虫の加齢に従って死亡率は単調に上昇していくのだと思っていたのですが、どうやらそうではないらしく、死亡率は一回プラトーに達するようなのです。

今回線虫の死因を検討したところ、咽頭が膨れて死ぬ線虫はやや若くで死に、咽頭がしぼんで死ぬ線虫はやや長生きをすることがわかりました。このことから一回プラトーに達する死亡率は、2種類の死因のピークがずれていることで説明できるのではないかとしています。(下の図の赤が膨れて死ぬ線虫、青が縮んで死ぬ線虫)

 

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論文中では咽頭への感染が起こる原因として若い時代のpumping(咽頭の収縮運動のこと)が多いことが挙げられています。pumpingが多いとそれだけ物理刺激が多く、咽頭に傷がつくため、感染が起こるのではないかということです。

さらに著者たちは、pumpingが減る線虫では咽頭が膨れて死ぬことが減ることを示しました。このpumpingが減る線虫は、以前にカロリー摂取を減らすと寿命が延びるという論文で使用されていた線虫であり、著者たちはカロリー摂取の減少よりも、感染の現象が寿命延長に寄与していたのではないかと述べています。

 

話の内容としては面白かったですが、実験内容のボリューム的には物足りない論文でした。病理学を他の生物に本格的に使用することができれば、いろいろなことがわかるのではないかと思うのですが、なかなかそうはならないですね。