理系夫婦のうたたねブログ

理系夫婦が好きなことを書いていきます。たまに医学っぽいことを書いていますが、あくまで私見です。

順遺伝学へのあこがれ

順遺伝学は僕のあこがれです。

なんてったって、研究をしているとどうしても付きまとう「仮説」というものから(ある程度)自由だからです。「仮説」というのは研究をするのに必要だけど、あると間違った方向に進んでいってしまうこともある気がするのです。P.B メダワーが、仮説を信じる気持ちの強さとその仮説が真実であるかどうかは全く関係がないという趣旨のことを著作に残していますが、全くその通りだと思うのです。

その点、順遺伝学は何が見つかるかわからない(それどころかそもそも何かが見つかるのかわからない)ので、純粋な目で生物と向き合うことができると思っています。その分、系の構築には気を使うと思いますが・・・

 

 

Genome-Wide Screen for Genes Involved in Caenorhabditis elegans Developmentally Timed Sleep | G3: Genes | Genomes | Genetics

G3 に掲載された論文です。

線虫の睡眠(Lethargusと呼ばれるもの)の制御因子にNotchがあるのですが、それを用いてLethargusの制御因子を順遺伝学で探索しています。

Lethargusで順遺伝学というのは難しいと思います。なぜならLethargusの変異体を取ろうとすると変異線虫のLethargusを記録する必要がありますが、Lethargusは数時間(たいてい2~3時間)継続する現象なのでサンプル数を増やしにくいためです。さらに線虫が寝る時間を見極めて上記の時間の記録が必要ですのでよくわからない場合には5~6時間の記録が必要となってしまいます。

順遺伝学をやろうとするならおそらくスクリーニングのスケールとしては数千匹はやらないと面白いものは引っかかってこないと思われるので、Lethargusをまともに見て、順遺伝学をやろうとすると途方もない時間がかかってしまいます。

この論文の筆者たちはその点をNotchの異時性発現によってクリアしています。Notchをheat shockプロモータで異時性に出すと線虫は眠るタイミングでなくてもlethargusのような行動をとります。その時に眠らない線虫を拾ってきたということです。

heat shockによって異時性に眠らせることで、線虫の眠るタイミングを操作できるため、効率よくスクリーニングが行えるという算段なわけですね。

さらに筆者たちは第二段階、第三段階とスクリーニングをしており、第三段階ではLethargusを直接測定しています。

いかにしてサンプル数を稼ぎつつLethargusの制御遺伝子を取ってくるかということを悩まれた末の系であったと思います。やはり順遺伝学の系にはセンスが現れますね。僕もいつか、論文を読む人が唸るような順遺伝学の系を作ってみたいものです。