理系夫婦のうたたねブログ

理系夫婦が好きなことを書いていきます。旦那は医師では有りますが、医学的助言は一切おこなっていません。

寝る子は育つ(脳が)

久しぶりに論文紹介

A sleep state in Drosophila larvae required for neural stem cell proliferation

珍しくハエの(それも幼虫の)論文を読んでみました。

著者の中の1人、Raizen博士は2008年のNatureに載った線虫のLethargusが睡眠様行動であるという論文のFirst authorです。その後はLethargusをしばらくやった後にstress induced sleepを研究しているみたいです。

 

今回の論文は成虫では睡眠の研究が盛んにされているキイロショウジョウバエについてです。論文の最初はハエの幼虫のquiescent stateが睡眠様行動であることを示しています。

一般的に脳波の取れない生物では睡眠は行動学的に定義されます。定義の中には外的な刺激によってすぐに覚醒状態に戻ることや阻害するとリバウンドが見られることなどが含まれています。今回もそれらを一つひとつ示して行っている訳なのですが・・・

常日頃から思うことですが、なかなか行動学だけで睡眠を定義するのは難しいなと思います。特に哺乳類をやっている人たちの理解を得るのは難しいのではないでしょうか。ハエの幼虫は動きが止まって、体を少し縮こめるという行動をしており、それがsleep like stateであると述べているのですが、それが睡眠というのもなかなかイメージしにくいですよね。特に僕がひっかかったのは持続時間です。ハエの幼虫の睡眠は最短の持続時間が6秒とされています。これは線虫と比べるとかなり断片化されています。本文中にもありますが、もちろん断片化された睡眠をとっている生物は他にもいますからおかしな事ではありません。しかし新しく睡眠様行動を定義するにあたって断片化した睡眠というのは一般的にいうところのrestなのではないかと言われてしまいそうです。おそらく今後はハエの幼虫が睡眠しているということに関して、遺伝学的な論証も進める人が出てくるのではないかと思うのですが、どう進んでいくのか見所かもしれません。

 

論文の中盤では幼虫の睡眠の制御因子に関して述べています。面白いのはハエの成虫で覚醒を促進するDopamineが幼虫では作用を持たず、Octopamineが覚醒作用をもつこと。著者らはDevelopmentの途中での睡眠と大人になってからの睡眠では制御系が一部異なるのではないかと述べています。これは興味深い考察です。線虫でもDevelopmentの途中で見られるLethargusと成虫でも認められるStress-induced quiescenceなどは制御系が異なります。ハエでも同じ様な結論ということですよね。哺乳類で考えるとどうなんでしょう。ただの思いつきですが、幼少期にREM睡眠が多く、徐々に減ることが似ている様な気がするのです・・・・

 

終盤では幼虫の睡眠と神経細胞の発生について述べています。幼虫の睡眠を阻害すると神経細胞の発生が阻害されるというのです。まさに寝る子は育つですね。幼少期の睡眠が大切なのはよく言われますが、おそらく人で同じことを言うなら出産前の睡眠が神経系に重要であると言うことになりそうです。人間の知見はあまり持ち合わせていないので適当なことしか言えませんが・・・

ちょっときになるのはリバウンドsleep後に阻害された神経細胞の発生が完全に元に戻っていたこと。これでは阻害というよりは時期がずれただけな気がするのですが、特にコメントはなかったです。

 

思ったよりも睡眠を定義するパートが長かったですが、そのお陰で線虫の睡眠を見直すいい機会にもなりました。最後の神経細胞の発生阻害の話も面白かったです。