今日は論文紹介です。
Two forms of death in ageing Caenorhabditis elegans : Nature Communications
今週Nature Communicationsに出た論文を読んでみました。
僕は昔、医学を学べば少しは死についてもわかるのではないかと考えたことがありました。医師は患者が亡くなれば死亡診断書を書きますし、簡単にわからない死因だったなら解剖をして明らかにするのではないかと思っていたのです。
今、医師として働き始める程度には医学を勉強して知ったことは、突き詰めていくと結局のところ何を持って死と定義すればいいのかわからないし、死因がはっきりしないことだっていくらでもあるんだなと言うことです。
今回の論文は線虫の死因についてです。寿命の研究は線虫では非常に盛んに行われています。線虫は2〜3週間という短い寿命を持ち、遺伝学を応用しやすいので寿命の研究に最適なのでしょうね。
通常の線虫の寿命の研究は、大雑把に言えば遺伝学を用いて変異を入れた線虫の寿命を測定する実験がメインになってきますが、今回著者たちは線虫に対して病理学的なアプローチを用いました。
著者たちは線虫は咽頭が膨れて死ぬ線虫としぼんで死ぬ線虫に分けられることに着目し、これらの線虫の死因を調べました。その結果、膨れた咽頭にはバクテリア(大腸菌)が浸潤していることを明らかにしました。
僕は今まで線虫の加齢に従って死亡率は単調に上昇していくのだと思っていたのですが、どうやらそうではないらしく、死亡率は一回プラトーに達するようなのです。
今回線虫の死因を検討したところ、咽頭が膨れて死ぬ線虫はやや若くで死に、咽頭がしぼんで死ぬ線虫はやや長生きをすることがわかりました。このことから一回プラトーに達する死亡率は、2種類の死因のピークがずれていることで説明できるのではないかとしています。(下の図の赤が膨れて死ぬ線虫、青が縮んで死ぬ線虫)
論文中では咽頭への感染が起こる原因として若い時代のpumping(咽頭の収縮運動のこと)が多いことが挙げられています。pumpingが多いとそれだけ物理刺激が多く、咽頭に傷がつくため、感染が起こるのではないかということです。
さらに著者たちは、pumpingが減る線虫では咽頭が膨れて死ぬことが減ることを示しました。このpumpingが減る線虫は、以前にカロリー摂取を減らすと寿命が延びるという論文で使用されていた線虫であり、著者たちはカロリー摂取の減少よりも、感染の現象が寿命延長に寄与していたのではないかと述べています。
話の内容としては面白かったですが、実験内容のボリューム的には物足りない論文でした。病理学を他の生物に本格的に使用することができれば、いろいろなことがわかるのではないかと思うのですが、なかなかそうはならないですね。