理系夫婦のうたたねブログ

理系夫婦が好きなことを書いていきます。たまに医学っぽいことを書いていますが、あくまで私見です。

我が家での最新の仲直り方法

旦那です。

 

妻とはケンカすることが多いのですが、長い付き合いの中でいくつもの対策法を作り上げてきました。

最新のものを紹介します。

 


【公式】セキスイハイム おひさまのチカラ 30秒

 

このCMをご存知でしょうか。明るい曲調、可愛いダンス。いいCMですよね。

セキスイハイムのCMは昔から好きなのですが、このCMは特にお気に入りです。

肝心の仲直り方ですが、

 

この黄色い服の子供達のダンスを全力でやります

 

このダンスは子供たちがやるからこそ可愛いので、いい大人になった私たちが全力でやるとシュールになります。相手の全力で踊っているのを見て楽しくなりますし、自分も踊っている最中からだいたい楽しくなって何でケンカしていたか忘れます。

このブログを書く直前もケンカをしていたのですが、スピーカーでCMを流してダンスをしてことなきを得ました。

 

挙句

私「ちょっと足の動かし方ミスったなー・・・」

妻「Aメロ(?)のところの振り付けを二人で変えたほうがいい気がする!」

というケンカと全く関係のない反省会も開かれる始末。

 

 

ありがとう、セキスイハイムさん

あなたのおかげで我が家は今日もあったかハイムです。

 

 

 

ハエは眠るのか

旦那です。

 

今回はショウジョウバエに手を出してみます。

 

Rest in Drosophila is a sleep-like state.

Hendricks JC, Finn SM, Panckeri KA, Chavkin J, Williams JA, Sehgal A, Pack AI. Neuron. 2000 Jan;25(1):129-38. 

 

そういえば先日すでにハエに手を出していましたね。順序が逆になってしまいました。

 

med-ruka.hatenablog.com

 

 

 

Summary

 筆者たちはショウジョウバエの"Rest"と呼ばれていた行動が睡眠様行動と呼ぶに足る特徴を備えていることを示した。ショウジョウバエは特定の場所で、概日リズムの特定のタイミングでRestした。加えてRest中の感覚応答は減弱した。Restは概日リズムとホメオスタティックな制御の両方を受けており、断眠によって反跳睡眠を認めた。更に、哺乳類のアデノシン受容体のアゴニスト・アンタゴニストを投与することでRestを調節することができた。このことは哺乳類からショウジョウバエまでの睡眠制御のメカニズムが保存されていることを示唆する。また筆者らはホメオスタティックな反応が時計遺伝子のtimelessによって制御されていることを示した。今後ショウジョウバエの睡眠様行動を研究することで睡眠の制御や機能の解明に役立つかもしれない。

 

Introduction

 動物界では概日リズムに沿った"rest-activity"のサイクルがある。哺乳類や鳥類では睡眠は脳波によって定義されるが、その他にも行動学的な定義がある。脳波を測定できない生物の睡眠を定義するにあたっては

(1)特定の概日リズムの周期で活動性が低下すること

(2)種特異的な姿勢や場所で睡眠すること

(3)覚醒の閾値が上昇すること

(4)homeostaticな制御を受けること

の4つを満たすことが必要であると考えられた。加えて筆者らは定義として

(5)睡眠様行動は中枢神経の機能変化に関わっていること

が必要であると考えた。これらの定義を設定した場合、ショウジョウバエの"Rest"が睡眠様行動となり得るかを検証した。

 

Results

"Rest"は概日リズムの特定の時期に出現する活動性の低下である

 ショウジョウバエの睡眠様行動を研究するため、通常の活動量測定*1に加えてビデオ撮影による詳細な行動の解析も行った。

 解析ではショウジョウバエは決まって餌のある方で"Rest"をとることがわかった。"Rest"の前には典型的には餌から遠ざかるように数mm歩き、その後にうつ伏せで"Rest"の状態となった。わずかな呼吸の動きのみ認められるようなほぼ完全な不動状態は最大で26分間続いた。一方で不動状態の合間には口先の動きや尾側腹部のピクピクとした動き、四肢の痙攣様の動きは時折認められた。これらの動きは何らかの目的を持ったものではなさそうにみえた。

 11匹のショウジョウバエのビデオ解析では1分以上持続する"Rest"は24時間のうち48%程度を占めていた。概日リズムの中では"Rest"のうち80%以上が夜間に認められた。単一の"Rest"で最長のものは105分程度持続し、"Rest"は30分以上のものがほとんどであった。逆に1分未満の"Rest"のような行動というのは1日のうちでも16分程度と僅かに認められるのみであると判明した。これらのことから"Rest"の定義として1分以上持続する行動であることを加えた。

 

"Rest"中の感覚応答は減弱する

 "Rest"が他の睡眠の定義を満たすかどうかを調べるため、感覚応答に関する実験を行った。主には

(1)個体ではなく、集団のショウジョウバエの観察

(2)集団のショウジョウバエに対して機械刺激によるdeprivation

の2つの実験を行った。

 一つ目の実験として数十匹のショウジョウバエの行動を同時に測定することで、ショウジョウバエは集団で飼育されている場合でも個体での観察時に認められたのと同じ状況(餌から離れて、うずくまって)で"Rest"してしていることが明らかになった。加えて集団で飼育していると個体同士が接触することもあったが、"Rest"中のショウジョウバエは接触程度では反応しないか、わずかな動きをするのみであった。続いて容器のタップに対する反応を調べると、activeなショウジョウバエは反応するが"Rest"中のショウジョウバエは反応を示さなかった。

 続いて2つ目の実験として集団のショウジョウバエの行動を観察しながら、1匹でも"Rest"の状態になったら機械刺激を与えるというプロトコルでdeprivationを行った。最初の2時間では刺激の頻度、強度は高くなくてもdepriveできていたが、6.5時間後には最大の刺激を5回繰り返さなければ活動性を保つことができなかった。

 これらの結果からは"Rest"中は感覚応答が減弱し、depriveによってarousal thresholdが上昇すると考えられた。

 

"Rest"の阻害後には"Rest rebound"が認められる

 睡眠のhomeostasisの関連する現象として反跳睡眠(rebound sleep)がよく知られている。ショウジョウバエにおいても"Rest rebound"が認められるか検証した。

 最初は10-50匹のショウジョウバエを手動でdepriveして観察を行ったが、depriveの後には顕著に"Rest"が増加した。代表的な例では本来ならactiveな状態であるはずの昼間にも"Rest"が認められた。

 次に長い期間の観察の為、プログラムどおりに平均1分毎に機械刺激を加える装置を作成してdepriveを行なった。この場合6時間の間は"Rest"は完全にdepriveできた。実際の実験では"Rest-deprived"群、"Rested-control群"、"Handled-control"(インキュベーターからは出すものの、depriveは行わない。)群に分けた。

 deprive群の中でもdeprive後に過剰に"Rest"が出現する個体から、むしろ"Rest"が減弱する個体まで様々存在していたが、統計解析を行うと"Rest-deprived"群では他の群と比較して優位に"Rest"が多かった。詳細には、deprive後は朝の"Rest"が有意に増加していた。ショウジョウバエは主に夜間に"Rest"しているので、depriveを受けた個体が朝にreboundを起こすことは予想通りであったものの、興味深いことにdepriveを受けた翌日のみならず、3日目まで朝の"Rest"増加は持続した。一方で午後や夜間の"Rest"は郡間に差を認めなかった。*2

 この結果から、筆者らは"Rest"においてはhomeostatic reboundもまた概日リズムの影響を受けていると考えている。加えてrebound Restに関しては概日リズムの影響が減弱している(概日リズムから見ると眠りにくい朝にのみreboundが見られている事から)と結論付けている。

 仮にrebound restがhomeostaticな制御を受けているとしたら、depriveの長さによってreboundの量も影響を受けるだろうかということを次に調べている。結果としては1.5時間以上のdepriveで初めて、reboundがみられることが判明した。*3

 更にストレスの影響を否定するために、depriveと同じ刺激を朝に加える実験も行なったが、controlとかわらない"Rest"を示したのみであった。この事から筆者らは"Rest"のreboundはdeprivationに特異的に起こっていると考えている。

 

"Rest"に関わる神経系のメカニズムには哺乳類との共通点がある

 ショウジョウバエから哺乳類まで多数の神経伝達物質が保存されているが、"Rest"と睡眠を制御するメカニズムが保存されているかを検討した。哺乳類ではアデノシンが睡眠の制御に関わっていることが示唆されている。*4 ショウジョウバエを含む無脊椎動物にはアデノシンレセプターが見つかっていないものの、カフェインをショウジョウバエに投与した。すると"Rest"の平均値はdose-dependentに減少することが判明した。一方で5mg/mL投与したショウジョウバエは死亡例があった事からカフェインによる非特異的なストレスによって"Rest"が阻害されている可能性があった。つぎにアデノシンA1レセプター特異的なアゴニストであるcyclohexadienoneを投与したところ"Rest"は有意に増加した。

 この結果からはアデノシン受容体の拮抗薬や作動薬で制御されいているという点で、"Rest"と睡眠には制御系に共通点があると考えられた。

 

"Rest" reboundは時計遺伝子に影響を受ける

 概日リズムと睡眠のhomeostaticな制御に関する分子レベルの研究はショウジョウバエでも可能であると考えられた。最初に筆者らはすでに知られている時計遺伝子であるtimelessperiodのnull mutant(それぞれtim0, per0と呼ぶ)を解析した。

 "Rest"の計測ではこれらの変異体は予想どおりに概日リズムを失っていたものの、一日を通じての平均の"Rest"レベルは変化しなかった。*5 一方で夜間にdepriveを行なって、それ以降の"Rest"を計測するとper0ではreboundを認めたが、tim0ではむしろdeprive後に"Rest"が減少した。

 より詳細に解析を行なった結果、baseline時点ではper0tim0も"Rest"が断片化していることが分かった。野生型では30min以上の"Rest"が最多であるが、per0, tim0では30min以上の"Rest"はほとんど認められなかった。deprive後はper0ではより長い"Rest"が増加するのに対して、tim0では長い"Rest"の増加は認められなかった。

 tim0で認められた表現系が、timelessの変異に由来するものであることを確かめる為に、tim0にプロモータを含むtimeless遺伝子を導入したtim7という株で実験を行なった。結果としてtim7ではdeprive後のreboundが優位に認められたため、timelessがhomeostaticな制御に関与している可能性が示唆された。ただしtim7では2日目以降のreboundは確認されなかった。この現象に関してははっきりと書かれていないが、実験系自体が個体差を検出しやすい為である可能性が指摘された。

 

Discussion

"Rest"はショウジョウバエの睡眠様行動*6である

 最初にあげた4つの定義を"Rest"は満たしていると考えられる。

(1)特定の概日リズムの周期で活動性が低下すること

ショウジョウバエは主に夜間の前半で最大2.5時間ほど活動性が低下した。"Rest"中は呼吸運動以外に、4-5分毎にわずかな骨格筋の動きを伴う程度である。

(2)種特異的な姿勢や場所で睡眠すること

ショウジョウバエは餌の近くではあるものの、少し離れた場所で床に俯せで"Rest"する。

(3)覚醒の閾値が上昇すること

"Rest"中は他の個体にぶつかられても反応せず、実験的にくわえた機械刺激にも反応しなかった。depriveを行うと覚醒の閾値が上昇することも確かめられた。

(4)homeostaticな制御を受けること

夜間の"Rest" depriveは3日間持続するrebound Restを引き起こした。reboundは1日中認められるのではなく、3日とも朝にのみ認められるという特徴があった。この結果からは他の生物同様、ショウジョウバエの"Rest"がhomeostaticな制御を受けていることが示唆された。加えてreboudも概日リズムとhomeostaticな制御の両方と受けていることも示唆された。

 

"Rest"を制御する神経機構

 "Rest"と哺乳類の睡眠の間に、神経や伝達物質レベルでの進化的な保存があるかどうかを確かめる最初のステップとしてアデノシン受容体について解析を行なった。結果としてはアデノシン受容体の拮抗薬で"Rest"は減り、作動薬で"Rest"が増加するという結果となった。この結果からはアデノシンとその受容体の機能がショウジョウバエから哺乳類まで保存されていることが示唆される。しかしショウジョウバエを含む無脊椎動物ではアデノシン受容体は確認されておらず、アデノシン受容体拮抗薬や作動薬がアデノシン受容体を介さない他の経路で"Rest"に関わった可能性も十分にある。アデノシンと睡眠に関する研究についても今後ショウジョウバエで行える可能性がある。

 

"Rest"と時計遺伝子

 periodtimelessのnull変異体を用いて解析を行なった。per0で認められた概日リズムを失った表現系は予想通りであり、suprachiasmatic nucleus*7を破壊された哺乳類の実験結果と類似点があった。一方でtim0ではhomeostaticな制御に影響が生じた。最近*8ではほ乳類の時計遺伝子が覚醒状態の安定化に関わるとされていることが指摘されていることと一致する。今回の結果からはtimelessが睡眠のhomeostaticな制御に関わっている可能性が示唆される。

 

 結論として筆者らはショウジョウバエの"Rest"が睡眠との間に共通点をもち、sleep-like stateと呼ぶに足りる特長を供えているとする。ショウジョウバエでは遺伝学的な手法がすでに確立されており、哺乳類のモデル生物と比較しても非常に実験を行い易い。概日リズムや記憶に関する知見もすでに積み重なってきている。筆者らは今後"Rest"の研究によって睡眠の機能と制御の分子的基盤が明らかになると考えている。

 

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感想

 2000年のneuronの論文でした。面白かった。ラットと同じで、細かい実験手法に関してはやったことがなくて想像なのですが・・・

 C. elegansは遅れること8年ほどでsleep-like stateであるという論文が出ていますね。実際のところ無脊椎動物の休止状態の研究をいつ"睡眠"と言い始めるのかっていうのは、みなさん空気を読んで決めている様な気がします。C. elegansも最近はsleep-like stateではなくてsleepという表現に変わってきた感があります。

 ショウジョウバエ神経細胞が10万のオーダーで存在するので網羅的解析はなかなか難しいのですが、不可能ではなく、今後の発展にも期待ですね。

 

 

 

 

*1:細いチューブの中にショウジョウバエ1匹を閉じ込め、チューブの片方には餌を置く。細いチューブの真ん中には上からレーザーがあたっており、ショウジョウバエが動いてチューブの真ん中を通る際にレーザーが遮られる。この遮った回数を数えることで活動量を測定する。

*2:この結果に関しては天井効果と考えることもできそうだが・・

*3:deprive-duration-dependentにreboundが増えるという様な結果はなし

*4:もっとも有名なのはカフェインでしょうね

*5:朝に"Rest"したりするものの、仮眠であったりはしないということ

*6:この当時はsleep-like stateだったんですね・・2018年の今ではsleepと言い切っています。

*7:=SCN 哺乳類で概日リズムを司っている脳の領域

*8:注 1993年

単著の教科書の著者を尊敬する

旦那です。

 

現在は呼吸器内科で研修をしているのですが、先日上の先生が

胸膜疾患のすべて 改訂第3版

胸膜疾患のすべて 改訂第3版

 

 という本を貸してくださいました。馴染みの無い分野の教科書ではあるものの語り口が論理的であり、基礎医学から臨床までの知識がきれいにまとめてありました。非常に楽しく読ませていただいたのですが、(もちろん読んだのはほんの一部ですが)ふと表紙を見て、light先生の単著であることに驚きました。

 

医学の教科書は世の中に多くあり、もちろん単著のものもあるのですが、このレベルの分野の広さで単著というのは珍しいと思います。同じような教科書として自分が持っているのは

The Biology of Cancer

The Biology of Cancer

 

くらいでしょうか。 カンデル神経科学やハリソン内科学などは当然のように複数著者ですものね。

 

もちろん複数の著者で書く教科書のほうが良い点もあります。各方面の専門家を集めることでより完成度を高めることが最たる利点と思われます。神経科学や内科学はすでに膨大な知識が積み重なっているため、むしろ複数著者でなければ教科書を書くことは不可能に近くなっているのだと思います。

では上記した胸膜疾患やがんの生物学についての知識が未発展かというと全くそうではありません。1章を書くのに100を超える論文を引用し、それらを適切に結びつけて書いていく・・・途方もない作業であると考えられます。単著で教科書をかけるということはその分野の全てに深く精通しているということであり、一理系の人間として深く尊敬の念を感じました。

 

 

 

ちなみに「胸膜疾患のすべて」の原著を書いたlight先生は胸水の鑑別でよく出てくるlightの基準*1を提唱された先生です。私は来年から基礎医学系の大学院に行き臨床からは離れるため、この教科書を臨床に活かしてどうこうということはないでしょうが、このような素晴らしい教科書*2に出会えて嬉しくなったので記載しました。

 

*1:最初にlightの基準を提唱したのはなんと初期研修1年目だった時だそうです。座談会のURLを貼っておきます。

医学書院/週刊医学界新聞(第3251号 2017年12月04日)

*2:今回読んだのは日本語訳版であったので、訳された先生方も素晴らしかったため良い教科書になったのだと思います。

ラットは寝ないとどうなるのか

旦那です。

 

古典を読みました。

academic.oup.com

 もともとは1989年にpublishされた論文を検証してまとめ直したreviewです。有名な総説ですね。しっかり読むのは久しぶりな気がします。私はラットやマウスの研究をしたことがないのでイマイチなまとめになってしまうと思いますが、あしからず・・・

 

 

 

1989年の結果の確認

 筆者たちが1989年に報告した断眠実験の結果を再確認している。1989年と同じくDisk-over-water法*1でラットのTotal sleep deprivation(=TSD すべてのsleep stageで断眠)とParadoxical sleep deprivation (=PSD)を行っている。*2

1. 死亡率

TSDされたラットは2-3週程度で死亡、PSDの場合には4-6週で死亡することが確かめられた。

2. 体重減少

TSD、PSDともに食事摂取量が増加するにもかかわらず、体重が減少することが確かめられた。エネルギー消費量は増加していることを確かめた。

 3. 外見

断眠されたラットは痩せこけて衰弱することを確かめた。

4. 皮膚所見

ひどい皮膚潰瘍と過角化が手足と尾にできることが再現された。

5. 体温

TSDラットでは最初、深部体温は上昇するが、その後体温が低下していった。一方でPSDラットでは一貫して体温は低下した。

6. 反跳睡眠

TSDをやめた場合には反跳睡眠(rebound sleep)を認めた。反跳睡眠にはREMが多いという特徴があった。

 

断眠実験の交絡因子について

 断眠実験にはいつも交絡因子がつきまとう。ラットでの研究ということで*3絡因子としてサーカディアンリズムの破綻とストレスの影響があげられた。

サーカディアンリズム

 常に明期で実験を行うことによってコントロール群でも同じようにサーカディアンリズムを破綻させて実験を行った。筆者たちはサーカディアンリズムの破綻のみでは断眠による表現型は殆ど出ないとしている。(論文は引用されていない。)加えて12時間ごとに明期暗期を分けての実験も行ったが、こちらでは明期のみのときと同じ表現型がみとめられた。これらのことから断眠による影響はサーカディアンリズムの喪失のみでは説明できないとしている。

 

ストレス

 コントロール群も同じくDisk-over-water法を行われていたため、断眠群と比較することでストレスのみの影響を除外できていると考えられる。加えて断眠群では典型的なストレス応答*4が認められなかった。TSDラットの体温変化はストレス応答と真逆であり、最初は体温の上昇を認めるが、その後は経時的に体温は低下していった。時間経過とともにエネルギー消費が増大することもストレス応答では認められない特徴であった。反跳睡眠にREMが多いこともストレス応答では認められない特徴であった。これらのことからストレスの影響は完全には除外できないが、断眠特異的な反応を捉えられているとしている。

 

断眠によって認められた変化と考察

エネルギー消費の増加

 断眠でラットのエネルギー消費は倍増した。このエネルギー消費の増加に関しては単に覚醒時間が延長したことによる効果ではないとされる。実際にSDを継続するに従って徐々にエネルギー消費量は増加していくことが確かめられた。

 エネルギー消費量の増加を説明できるホルモンとしては副腎皮質ステロイド甲状腺ホルモン、アドレナリンを測定したが、明らかな増加は示さなかった。唯一循環血中のノルアドレナリンはSD開始とともに分泌が増加し、その後も徐々に濃度が上昇した。この結果からはエネルギー消費の増加はノルアドレナリン分泌の増加によるものと考えられた。

 断眠中のエネルギー消費に対するノルアドレナリンの効果を見るため、TSDラットにグアチネジン*5を投与した。結果として血中のノルアドレナリン濃度は下がったものの、エネルギー消費量やSDに関連した他の影響は変化しなかった。このことからノルアドレナリン血中濃度上昇はエネルギー消費増大の原因ではなくて、結果であることが示唆された。

 次に甲状腺機能を低下させたラット*6を作成した。このラットでは断眠初期の体温上昇が認められず、その後の体温も一貫して低温であった。一方で中枢における体温のセットポイント上昇は起こっていた。体温低下はより顕著であるものの生存期間は変化しなかった。逆に甲状腺機能亢進状態にした場合には体温は最初から上昇し、その後も高いままで維持できていた。しかし、生存期間は37%短縮した。

 以上の結果からは上昇した体温のセットポイントまで体温を上昇させるために、甲状腺ホルモンやノルアドレナリンなどを用いているのではないかと考えられた。

 ではエネルギー消費の増大が、最終的な死に関わっているのか。それを明らかにするため10℃未満という寒冷条件でラットの観察を行った。この場合にはエネルギー消費量は常温下での甲状腺機能亢進ラットと同程度となるが、34日間の観察期間で死亡したラットはいなかった。

 別の可能性として甲状腺機能亢進により寿命が短くなるのは異化亢進による組織の破壊などが関与するのではないかと考えられた。しかし、断食ではTSDと比較して2倍以上の体重減少が起こるが、死亡例はなかった。

 甲状腺機能低下では体温がより低下するも、死亡までの期間は変化せず、甲状腺機能亢進では体温は保たれているが、死亡までの期間は短くなる。これらの結果からは低体温が直接の死因とは考えられなかった。

 ただし、興味深い点として甲状腺機能低下ラットでは断眠による衰弱した様子や皮膚障害が認められず、外見上は断眠されていないラットのように見えた。皮膚障害に関しては病理学的にもあまり類を見ない障害であるとされ、詳細なメカニズムは不明であるが、断眠甲状腺機能亢進の両方が関与することで形成されているのではないかと考えられる。

 

体温制御

 断眠されたラットの体温は特徴的な変化をした。TSDラットの深部体温は断眠開始直後には上昇するが、その後は低下の一途を辿った。ラットのエネルギー消費量は増大していたことから、この体温の低下は熱の喪失によるものと考えられる。TSD開始直後の体温上昇の原因としては体温制御中枢でのセットポイント上昇が関係していると考えられた。実際に深部体温が低下しているにもかかわらず、視床下部の温度は長い間保たれていた。加えてTSDラットは高温環境を好んでいた。

 一方でPSDラットでは最初の体温上昇も視床下部の温度上昇もなかった。このことからは体温のセットポイントの上昇はNREM sleepの障害によって生じていると考えられた。逆に熱の喪失はREM sleepの障害によって生じていると考えられた。実際にNREM sleepの断眠では死の直前まで体温の上昇が認められていた。

 総じて睡眠によって体温の調節は大きく乱れると考えられた。

 体温のセットポイントは視索前野(Preoptic area)で制御されているとされる。この領域を傷害した場合には体温の恒常性制御ができなくなった。しかし、それだけではTSDで認められるような体温変化は再現できなかった。このことからはTSDによる影響は単なる体温調節中枢の障害ではないと考えられた。

 次に異常な熱の喪失の原因を探るために、末梢血管の拡張、収縮能の評価を行った。血管拡張薬を用いた実験ではTSDラットにおいても末梢の血管収縮能は保たれていることが示唆された。一方で断眠によって血管収縮能が傷害されるという研究結果も存在することから、はっきりと結論は出ていない。おそらく、血管収縮能の障害は体温調節能不全の一部をなすと考えられるが、全てを説明できるわけではないようである。

 食事摂取量が増大しているにもかかわらず、体温を保てないというのは非常に興味深い。加えてTSDラットは体重も減少し、運動量も現症していることから摂取した食物の熱量の行き先は現時点では不明である。

 

脳での変化

 睡眠の恒常性は脳で制御されていると考えられているが、断眠で死亡したラットの脳に明らかな変化は認められなかった。モノアミンレベルやREM sleepに関連するアセチルコリンレセプタの解析、脳領域から細胞内小器官のレベルまでの病理学的検討まで行った論文があるものの、大きな変化はみとめられなかった。初期応答遺伝子の検討でも多くの脳領域では差が認められず、糖代謝を見た研究でも視床下部視床などで低下を認めるのみであった。しかも視床下部での糖代謝の低下はTSDラットよりもNREM sleepをしているラットのほうが低下していた。

 結果として断眠されたラットの脳には、断眠の効果を説明できる形態学、機能的な変化は認められなった。

 

免疫への影響 

 1989年の研究時点ではTSDラットも、PSDラットも免疫の異常を示さなかった。ただし当時の実験で計測された項目は脾臓の細胞数カウントなど免疫能を充分に反映しているか不明な項目であった。1993年の報告ではTSDラットは6匹中5匹で菌血症となっていた。一方でコントロール群のラットは菌血症を起こしていなかった。ここからはTSDによって免疫が正常に働かなくなっていることが示唆された。菌血症の原因となる感染のfocusははっきりとせず、Bacterial Translocation*7が考えられた。

 以前の実験で免疫異常が検出できなかった理由として、単純な免疫能の低下のみが起こっているわけではないということが挙げられた。具体的にはTSDラットの半数でリンパ球は減少したが、半数では増加した。加えてTSDラットとコントロールラットに同種異系の腫瘍細胞を移植した結果、TSDラットでは腫瘍があまり成長せず、より早く退縮した。この結果からはT細胞系の免疫が賦活化されている可能性も示唆された。これらの結果からはTSDによって免疫系が撹乱されている可能性が考えられる。

 菌血症がその他のTSDで見られる反応に影響しているかを見るため、広域スペクトラムの抗菌薬投与を行いつつTSDを継続する実験も行ったが、他のTSDでの影響に変化はなかった。注目すべき点として、抗菌薬投与を行っていても、ラットはほぼ普通のTSDラットと同じ時期にやはり体温が低下して死亡した。

 これらの事実からはTSDは免疫系を撹乱し、最終的に菌血症を起こすものの、その他のTSDによる影響全てを説明することはできないと考えられた。

 

まとめ

 断眠群とコントロール群の比較により、少なくともラットにおいてはNREM睡眠やREM睡眠は生物学的に必要不可欠であると考えられた。断眠は特徴的な一連の変化を引き起こすことも明らかになった。

 一方で断眠による影響から睡眠の生物学的意義を明らかにすることはできなかった。睡眠の意義に少しでも迫っていたのは体温制御に関する知見であると考えられた。今後睡眠と体温制御に関してのさらなる研究が必要であると考えられる。

 断眠によって生じる、死を始めとした様々な状態を一元的に説明することは現時点ではできない。おそらく、多数の経路が関わる過程であると考えられ、それゆえに一つの機序を回避したとしても、同じ結果が得られるものと考えられる。

 睡眠は多くの生物種*8で認められる。一つ一つの動物種での睡眠の意義が全て異なっているということは考えにくい。つまり睡眠が保存されている理由があるはずである。

 

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 感想

 ラットの実験ということでなかなか想像しにくく、加えて過去の論文の知識もないので読むのが大変でした。今後他の論文読んで間違いに気づいたら直しに来るかもしれません。

 体温の変化に重きが置かれているのが印象的ですね。哺乳類の体温制御ってそれだけで本が1冊かけそうなくらい深いテーマだと思うのですが、それについて語り始められたら理解を超えてしまいますね。

 医学での勉強では生理学をしっかりやることはなく、ふわっとした理解で十分であり、病態をある程度説明できればそれでよい。っていうことがほとんどでしたので、本気で生理学を勉強しなくては哺乳類の理解っていうのは難しいんだろうなーと思います。

 一方でこのreviewを読んでいて、医学のバックグラウンドというのは哺乳類の研究には役立つのかもしれないとおもいました。一つ一つの生理学的知識はアバウトですが、一通り全身を理解しているおかげで睡眠のような多臓器が影響を受けるような現象の理解は比較的しやすいように思います。

*1:円盤の上にラットを載せて、EEGを継続的に記録し、入眠したら円盤を回転させて起こす。円盤が回転している間は反対に歩かないと水に落ちてしまうような仕組みになっている。

*2:REM sleepのことをparadoxical sleepということがあります。むかしの論文に多い印象

*3:C. elegansにはサーカディアンリズムは存在しない。

*4:胃潰瘍や副腎過形成、食欲の低下、脾臓の萎縮 、毛細血管血流の減少、最初に低体温が認められて、その後に発熱するという体温の変化

*5:ノルアドレナリンの遊離阻害薬、ノルアドレナリンの枯渇を引き起こす。

*6:プロピルチオウラシルを用いた

*7:腸管のバリア機構の破綻から腸管内の細菌が血流に乗る現象 ICUに入っている患者さんなどでも見られる

*8:おおよそ神経系を持つ生物はすべて、最近ではクラゲで提唱されて話題になりました。

線虫は寝ないとどうなるのか

旦那です。

 

 少し不眠や断眠についての論文をまとめてみようと思っています。ハエやマウス、ラットやヒトはreview頼りになりそうですし、そもそもどこまで続くかは気分次第ですが。

 これからは論文紹介の際には文章をまとめて基本的に論文の構成に忠実にまとめてみようと思います。感想は後で書くことにします。

 

線虫と断眠の論文はいくつかありますが、今回はこちらを 

DAF-16/FOXO regulates homeostasis of essential sleep-like behavior during larval transitions in C. elegans

Driver RJ, Lamb AL, Wyner AJ, Raizen DM. Curr Biol. 2013 Mar 18;23(6):501-6.

 

 

Summary

 睡眠には恒常性があり、睡眠の量と深さを保つ機構があるとされている。断眠(sleep deprivation)をされた際、その後に反跳睡眠(rebound sleep)が認められることからも睡眠に恒常性維持の機構があることを示している。この様に睡眠に恒常性があることは睡眠が不可欠であることの間接的な証拠となっている。

 今回筆者らはC. elegansの転写因子DAF-16が断眠に反応して働いていることを示した。DAF-16は断眠によって核内移行し、断眠DAF-16の活性化を介してdauerへの移行を促した。daf-16のloss-of-function変異体は断眠に対する抵抗性が下がり、断眠での死亡率が上昇した。興味深い点としてdaf-16の発現は神経ではなくて筋で重要であった。睡眠の恒常性を制御する機構としてdaf-16シグナリングが神経系以外で働いていることが示唆された。

 

Results & Discussion

断眠によってDAF-16シグナリングは増強する

 筆者たちは過去のショウジョウバエやラットの断眠実験の報告から、断眠とストレスの関係性に着目し、ストレス関連で研究が進んでいたDAF-16(FOXO転写因子)と睡眠について研究した。DAF-16は種々のストレスに応答して核内移行し、標的遺伝子の転写を制御することが知られている。

 DAF-16は1時間ほどの絶食で核内移行を起こすことが知られている。C. elegansはLethargus中以外ではほぼ常に食事をしているのだが、Lethargus中は2-3時間ほどpumpingが止まる。そこでLethargus中のDAF-16::GFP融合タンパクの局在を観察した。すると食事をしていないにもかかわらず、DAF-16は細胞質にとどまっていた。

 次にL1のdevelopment timingとDAF-16の核内/細胞質比率を計測してみると、L1の途中でDAF-16は核内に存在する比率が最大であり、Lethargus中にはむしろ核内局在の比率が下がることがわかった。これらの結果からはLethargus中にDAF-16が細胞質にとどまる機構があると考えられた。

 Lethargus quiescenceを阻害した場合にDAF-16の局在がどう変化するかを明らかにする為、断眠実験を行なった。Lethargusの最初の30分間、強制的に泳がせた場合、DAF-16はコントロール群と比較して優位に核内移行を起こした。Adultで同じ刺激をした場合には核内移行を起こさなかった。この核内移行に細胞種特異性があるのか観察した結果的、腸管と筋の細胞では核内移行が明らかであった。一方神経細胞では明らかな核内移行を認めなかった。*1加えて、断眠を止めると時間依存的に核に移行している割合は低下した。これらの結果からは主に腸や筋の細胞で、断眠によってDAF-16の核内移行が起こることがわかった。

 DAF-16の核内移行がDAF-16シグナリングの増強に関与しているかどうかを確かめる為の実験をおこなった。DAF-16はdauer*2への移行決定に関わることが知られており、その決定の一部はL1 Lethargus中に起こることが知られている。筆者らはDAF-16シグナルが増強するとdaureへ移行することが知られているdaf-8 変異体をに対して泳がせることで断眠を行った。結果としてLethargus中に泳がされた線虫はその後にdaureへ移行する割合が高かった。daf-8の上流で働くとされるdaf-7でも同じような結果であり、更にその結果はdaf-16のloss-of-function変異も導入すると減弱した。以上から断眠によってDAF-16シグナリングは増強すると考えられた。

daf-16断眠に対する正常な反応のために必要である

 以前の実験の結果からは、Lethargus前半の断眠はLethargus quiescence全体の長さを変化させなかった。実際に再度実験を行なった結果、pumping、defecationの再開のタイミングはコントロールと変化なく、脱皮のタイミングも変化しなかった。

 一方でarousal thresholdの変化ははっきりしていた。断眠を受けた線虫は1-octanol*3への反応性が鈍くなっていた。一方でdaf-16のloss-of-function変異体はarousal thresholdの上昇が認められなかった。この結果から、筆者らは断眠に対するhomeostaticな反応にはdaf-16が関与していると考えた。加えてレスキュー実験を行った結果、筋肉*4daf-16を発現させることでarousal thresholdの上昇が一部認められたが、神経*5での発現では認められなかったとしている。*6よって筆者らは線虫の筋肉が睡眠の恒常性維持に関わっていると考えた。

 

断眠により線虫は致死的なダメージを受ける

 以前の論文と同じく、断眠を受けた線虫の一部は死亡した。L4 Lethargusを30分阻害して死亡率は11%であった。死亡した線虫を詳しく見ると脱皮がうまくいっていなかった。*7

 daf-16のloss-of-function変異体を用いた所、死亡率は上昇した。daf-16(mu86)で18%、daf-16(mgDf50)で57%、daf-16(m26)で53%、daf-16(m27)で38%の死亡率であった。当然のことながら、断眠時のmechanical stimulationの影響は考えられた為、以下の2つの実験をおこなった。

(1)synchronizeさせたL1線虫*8に対してボルテックスによる機械刺激をあたえた。様々なdevelopmental timigで機械刺激を与えた結果、Lethargusに一致するタイミングで死亡率のピークが認められた。このことから死亡は機械刺激のみで起こるのではなく、Lethargusのタイミングで機械刺激があることが必要であると考えられた。

(2)L4 depriveを行う際にexperimental群の他にyoked群を作成した。experimental群は動きが止まるたびに機械刺激を与えられて動き続けることを強要される。一方でyoked群はexperimental群と同じタイミングで刺激される。yoked群は刺激される際に動きが止まっているかどうかは無視される。この2群は同じ頻度で機械刺激を受けるが、exprimental群はLethargus quiescenceを完全に阻害されるのに対して、yoked群は一部のみ阻害される。この2群ではexperimental群は8例中6例死亡したのに対して、yoked群は1例も死亡しなかった。

 以上から筆者らは致死的なダメージとなっているのは機械刺激そのものではなく、Lethargus quiescenceを阻害されることであると結論づけている。

 

致死的なダメージの原因として筆者らは以下の4つの説明を考えている。

(1)頻回に機械刺激をしたことで致死的なダメージを与えた可能性

この可能性はyoked群を設けた実験で否定的と考えている。

(2)泳ぎ続けたことで脱皮が阻害された可能性

確かに線虫は脱皮の際にflipという特殊な動きをする。しかし、flipと脱皮不全の関係もはっきりしていない。

(3)泳ぎ続けたことで新しい表皮をうまく形成できなかった可能性

しかし断眠して脱皮がうまく行っていなかった線虫でも成虫の表皮は形成されていることが確認された。

(4)活動性を維持したことで代謝が増加した為、脱皮に必要な代謝資源を保てなかった。

この考えはDAF-16がストレスと代謝の制御を担っている点からも合致する。

 

 今までにTotal sleep deprivation(TSD)の影響はラットでよく研究されている。TSDラットは死亡したが、認められた変化としては皮疹、過食と体重減少があった。一方で脳には大きな変化がなかった。ショウジョウバエでも断眠の研究がされたが、神経系以外での遺伝子操作で睡眠が影響を受けたし、断眠によって脂肪代謝は影響を受けた。これらの結果からは睡眠や睡眠様行動の恒常性の制御に神経系以外の関与があることも示唆される。

 今回の結果は比較的体の構造が単純なC. elegansにおいても睡眠様行動の恒常性が神経系以外によって制御されていることを示す結果となった。

 

 


 

感想

久しぶりにまともに読んでみました。断眠は難しいな、やっぱり。交絡因子の影響を排除するのがほぼ不可能であるので、実験系の設計や結果の解釈でなんとかするしかない感じがありますが、それが難しい・・・

 

 

*1:筆者らも指摘している通り、神経細胞では細胞体での核-細胞質比が大きい為、測定方法によっては神経細胞で特に細胞質への局在を指摘しにくそうであるが

*2:C. elegansの耐性幼虫 環境が成長に適していない(例えば高温や過密状態)場合にL3の代わりにdauerというステージへ移行する

*3:線虫にとっては有害な刺激となる。

*4:プロモータはPmyo-3

*5:プロモータはPunc-119

*6:ただし実験系が複雑である為、この結果には注意が必要である。実験ではまずコントロール断眠群にわけて、断眠群ではL4 Lethargusを最初から30分間阻害している。その後一度強い機械刺激を加えて線虫の刺激への反応性をLethargusしていない状態に近づける。その状態から1-octanolへの反応性を確認している。恐らく一度覚醒状態に近づけないと差が出なかったものと考えられるが、この方法で直接homeostatic responseを見ているといっていいのかは不明であると思われる。

*7:この様な表現型をmolting-defective (Mlt)という

*8:一番有名なのはL1 arrestを利用したsynchronization

当直で大切なもの

大層な題名をつけてしまいました。旦那です。

 

当直という業務があります。夜間に病院に残って救急外来を受診した患者さんや病棟で何かが起こったときに対応をするお仕事です。今回はそんな当直という業務をしている研修医に大切なものってなんだろうと考えてみたことを書いてみます。

 

もし見てくださる人に研修医がいるなら、参考になれば幸いですし、もし見てくださった人がいつか夜に病院を受診されたら、目の前の医者はもしかしたらこんなことを考えているのかな と思っていただければいいと思います。

 

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当直って皆さんどうお考えでしょう。少なくとも僕にとっては当直はいつも大変にストレスフルでした。

スムーズに病歴を取れない患者さんがいたり、看護師さんに怒られたり、手技がうまく行かなかったり、上級医は人によって言うことが180°違っていたり・・・一日病棟で働いて、夜には救急外来でストレスを受けながら働いて、でも明日もまた仕事。気をつけていても時折、ため息が出てしまいます。

 

一時期は怒られればそれなりに凹んでもいましたし、あまりに疲れたときには少しイライラしてしまっていた時期もありました。しかし最近になって思うのは、精神的・肉体的に疲労していることも、怒られることも事実であるし、あまり避けようがない。一方、自分の機嫌は自分の気の持ちようでなんとでもなるということです。

 

自分の機嫌をよく保つ これが僕が思う当直中の研修医に大切なものだと思うのです。

 

良い機嫌は周りで働いている人にも伝播しますし、なにより患者さんが心地よく思ってくれると思います。研修医といえど、患者さんから見たら"お医者さん"です。機嫌の悪い医師のところにかかりたいという患者さんがいるでしょうか。まして、夜間救急外来を受診する患者さんは不安でいっぱいです。そんな状態で必死で受診した病院で、機嫌の悪い医師に対応される・・・どう考えても患者さんはその病院にいい印象を持てません。 

 

だから研修医の皆さん。頑張って機嫌よく仕事をしましょう。機嫌よく仕事をしていると不思議とストレスフルなこともそう怒らないものです。

ではどうすれば機嫌よく仕事ができるか、それは人によって違います。自分なりに工夫しましょう。例えば僕なら予め面白い教科書を用意したり、お気に入りのスクラブで仕事をしたり、シャワーのときに少し良いシャンプーを用意してみたりですかね。そんな些細なことでいいと思うのです。当直はある程度のストレスがあって当たり前、そんな中でわずかにでも楽しめることがあれば救われると思います。

 

気持ちを楽に、どうか皆さんの当直が平和であり*1、ストレスが少しでもなく機嫌よく終わることを祈ります。

 

*1:当直が平和であることを祈ると、その当直が荒れるというジンクスはありますが、一応この論文で否定されています。

下記間違え

旦那です。

 

カルテといえば紙にドイツ語で〜

というのは今は昔の話です。多くの病院では電子カルテが採用され、カルテの殆どは日本語で書かれています。そこで日常の業務でどうしても生じるのが、誤変換による書き間違えです。特に医療現場では毎日同じ端末を使うことはほとんどなく、病棟の多くの端末が多数の医療従事者に使用されています。なので前の使用者の誤変換が残ってしまい、注意しないと誤変換のまま記載を行ってしまいそうになるのです。今回はそんな誤変換の小ネタです。

 

病棟の患者さんの中には痛みを抑えるために鎮痛薬を頓用で使っている人がいます。私達医師としては鎮痛薬を何回使ったか知りたいので疼痛時指示というのを出します。これは

「痛いときにはこのおくすりを渡してあげてください。このおくすりは6時間空ければ再度使用できますよ」

みたいな指示です。で、この疼痛時指示に従って鎮痛薬を使った場合にはカルテに

"疼痛時指示使用"

という言葉を看護師さんが記載してくれます。(もちろん病院によってルールは異なりますよ)

 

先日僕が仕事をしていて気づいたのは、現在働いている病院のとある病棟のみ数回に一度

"疼痛時指示使用" 

"疼痛痔指示使用" 

になっていたのです。よく見てみるとこの誤変換は同じ患者さんであっても連続で出現することなく、極稀に出現するようでした。推測ですが、"疼痛痔指示使用"と変換される端末がその病棟のどこかに存在し、その端末を使用して記載を行ったときだけそのように変換されているのだと思います。その端末を探し出して数回正しく記載してあげれば改善されるはずですが、流石にめんどくさくてやっていません。(ちなみに"痔"の読みは"じ"であっています。"ぢ"というのは歴史的仮名遣いのようです。)

 

カルテは患者さんの目に直接触れることは多くはなく、今回の書き間違いも可愛げのあるものであるので良いですが、日々患者さんに渡す文書も作っている身としては気をつけなければならないなと思います。病棟でひやっとする誤変換としては

"無くなる" が "亡くなる"

が一番怖いです。不吉な漢字を使うこともあるだけに、元気に退院する患者さんに対してそのような漢字を使うことのないよう気をつけなければいけないなとぼんやりと思いました。